ロッカールーム
それは初耳だった。


弘樹の家にも色々と事情があったようで、あたしは嫉妬という言葉に納得がいった。


あたしもそうだ。


両親が亡くなってしまってから、色んな子たちに嫉妬した。


どうして自分だけがと何度も落ち込んだりもした。


弘樹も同じだったんだ。


一瞬弘樹に『ロッカールーム』のことを教えたくなったが、あたしはグッと我慢した。


ここで優しさを見せるわけにはいかない。


弘樹には嫉妬を存分に放出してもらわないといけないんだから。


「弘樹の絵もみてみたいな。なにかないの?」


そう言うと「美術部に置かせてもらってるのが1枚あるよ。まだ描きかけだけど」


と、教えてくれた。


「また今度見せてよ。弘樹もプロを目指してるんでしょ?」


「あぁ。死んだ母親にプロになるって約束したんだ。だから俺は絶対にプロになる」


そう言って、弘樹は雑誌に載っている絵を睨み付けた。


弘樹の体からはすでに灰色のモヤがジワリと溢れてきていたのだった。
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