嵐を呼ぶ噂の学園① とんでもない学園に転校して来ちゃいました!編
「お待たせしました。星名家のカレーライス定食です」
彼は「えっ…」とぽかんと口を開けた。
それもそのはず。
実際のメニューにはないから。
「湖杜の客だ。湖杜がもてなせ。俺は知らん!」
営業時間外の客は父に断固拒否され、通してしまったわたしが、有り余りの材料で定食を作ることになった。
人気メニューのフライものの余りはなく、単品で出しているカレーが大鍋にたっぷり残っていたから、わたしなりのアレンジを加えて煮立たせた。
野菜サラダとしてトンカツに添えているキャベツをかき集め、冷蔵庫にかろうじて残っていたミニトマトを乗せた。
見た目はまずまず。
初めての提供にしては上出来。
なんて、自画自賛。
お口に合うかは分からないけれど…。
「いただきます」
男子学生と見られるお客様が手を合わせてから、スプーンでルーとライスを真ん中からすくい上げ、口に運んだ。
ずいぶん独特な食べ方だなぁ…。
ついつい目が奪われてしまう。
「おいしい…」
彼がぼそりと呟いた。
おいしい…?
おいしいんだ!
良かったぁ…。
ひとまず不味いものを作らなくて良かった。
これでとんでもないものを作ってしまったら客足が遠のいてしまうところだった。
わたしがホッと胸をなで下ろしている間に彼はスプーンをどんどん動かし、カレーライスを口に運んでいた。
気づいた時には、既に3分の2くらいを食べ進め、残されたのは野菜サラダだった。
「あの…」
彼が口を開いた。
見ると口の回りにルーが付いていた。
笑い出しそうになるのを必死にこらえた。
「何か問題でも…」
「いや、その…ずっと見られてると緊張するなぁって思って」
あ~あ、やっちゃった。
わたしったら、なんて失礼なことを…。
慌てて謝り、厨房に引っ込む。
何か言いたげな彼の視線を感じながらわたしは厨房の掃除を始めた。
ぐう~…
しゃがんだ瞬間、豪快にお腹が鳴った。
お昼ご飯を15時に食べ、おやつもせず動き回っていたから、とうとう限界が来てしまったみたい。
今日の夕飯は、カレーライスだな。
隠し味にチョコレートを入れてみた。
星名家のカレーライスと言っちゃったけど、完全にウソ。
チョコレートなんて入れたことない。
…ごめんなさい、お客様。
蛍光灯がチカチカしている。
LEDの時代に旧式をとっている。
時代遅れは気にしないのが私の父。
気にしないというか、疎い。
プラス、女心にも…。
「すみません!お会計良いですか」
「あっ、はい!ただいま!」
立ち上がり、走り出そうとすると、例の油のせいでつるんと滑り、お尻を強打した。
いったぁ…!
せっかくあの時の腫れが引けてきたのに。
くっそぉ!
「大丈夫…ですか?」
ぎゃあ!
見られた!
しかも男性に……。
っていうか…
笑ってる!
この人、笑ってるよ!
大丈夫とか言いながら笑うって失礼極まりないよ!
と思ったけれど、相手はお客様。
平静を装ってレジスターの前に立つ。
全身から漂う油の臭い。
早くお風呂に入りたいよぉ。
「500円、ちょうどいただきました。こちらレシートになります」
油やらホコリやらがついた手でレシートを渡すワケにもいかず、運良く近くにあったウェットティッシュで軽く吹いてから笑顔で手渡した。
そしたら
また笑われた。
一体私の何がそんなにおかしいのだろう?
変な顔してた?
「あのさ、いちいちおもしろすぎ!」
アハハハ!
久しぶりにこんなに楽しそうに笑ってる人を間近で見た。
男子にはなんとなく近寄りがたくて、自ら話しかけるなどできなくていつも遠目から青春の1ページを眺めている。
そんなわたしにとっては、新鮮そのもの。
搾りたてのフレッシュフルーツジュースを飲んだって感じ。
例えが変だけど…。
再び彼の顔を見ると、バッチリと目が合った。
わたしより10センチ以上背の高い彼に見下されているように感じる。
そういえば、濡れていた彼の髪はいつの間にか乾いていた。
ぺちゃんこだった髪型が空気を吸い込み、ふんわりとして、ちょっとだけクセのある髪から甘い匂いが漂ってきた。
「キミってここの娘?」
「まぁ、はい、一応…看板娘です」
「それ、自分で言う?」
「へ?」
「まあ、いいや」
まあ、よくない!
わたしのこと笑いすぎでしょ!?
失礼だから!
なんて、やっぱり言いません。
わたしは笑われっぱなしはイヤだし、今度来たら仕返しをしてやろうと思って彼に名前を聞いた。
「キミの名は?」
「は?」
「キミの名は?」
この人、分かってない!!
有名なアニメ映画に引っ掛けているのに、なんで分からないの?!
ズレすぎ!
時代遅れ!
仕方ない、先に名乗ろう!
「わたしは、星名湖杜です。…で、アナタは?」
「オレの名前って聞く必要ある?」
「あります!大有りです!それがウチのモットーです!」
仕方ねぇなあ…。
彼の口はそう発音しなかったけど、わたしの目にはしっかり映りこんだ。
「オレは…」
彼は「えっ…」とぽかんと口を開けた。
それもそのはず。
実際のメニューにはないから。
「湖杜の客だ。湖杜がもてなせ。俺は知らん!」
営業時間外の客は父に断固拒否され、通してしまったわたしが、有り余りの材料で定食を作ることになった。
人気メニューのフライものの余りはなく、単品で出しているカレーが大鍋にたっぷり残っていたから、わたしなりのアレンジを加えて煮立たせた。
野菜サラダとしてトンカツに添えているキャベツをかき集め、冷蔵庫にかろうじて残っていたミニトマトを乗せた。
見た目はまずまず。
初めての提供にしては上出来。
なんて、自画自賛。
お口に合うかは分からないけれど…。
「いただきます」
男子学生と見られるお客様が手を合わせてから、スプーンでルーとライスを真ん中からすくい上げ、口に運んだ。
ずいぶん独特な食べ方だなぁ…。
ついつい目が奪われてしまう。
「おいしい…」
彼がぼそりと呟いた。
おいしい…?
おいしいんだ!
良かったぁ…。
ひとまず不味いものを作らなくて良かった。
これでとんでもないものを作ってしまったら客足が遠のいてしまうところだった。
わたしがホッと胸をなで下ろしている間に彼はスプーンをどんどん動かし、カレーライスを口に運んでいた。
気づいた時には、既に3分の2くらいを食べ進め、残されたのは野菜サラダだった。
「あの…」
彼が口を開いた。
見ると口の回りにルーが付いていた。
笑い出しそうになるのを必死にこらえた。
「何か問題でも…」
「いや、その…ずっと見られてると緊張するなぁって思って」
あ~あ、やっちゃった。
わたしったら、なんて失礼なことを…。
慌てて謝り、厨房に引っ込む。
何か言いたげな彼の視線を感じながらわたしは厨房の掃除を始めた。
ぐう~…
しゃがんだ瞬間、豪快にお腹が鳴った。
お昼ご飯を15時に食べ、おやつもせず動き回っていたから、とうとう限界が来てしまったみたい。
今日の夕飯は、カレーライスだな。
隠し味にチョコレートを入れてみた。
星名家のカレーライスと言っちゃったけど、完全にウソ。
チョコレートなんて入れたことない。
…ごめんなさい、お客様。
蛍光灯がチカチカしている。
LEDの時代に旧式をとっている。
時代遅れは気にしないのが私の父。
気にしないというか、疎い。
プラス、女心にも…。
「すみません!お会計良いですか」
「あっ、はい!ただいま!」
立ち上がり、走り出そうとすると、例の油のせいでつるんと滑り、お尻を強打した。
いったぁ…!
せっかくあの時の腫れが引けてきたのに。
くっそぉ!
「大丈夫…ですか?」
ぎゃあ!
見られた!
しかも男性に……。
っていうか…
笑ってる!
この人、笑ってるよ!
大丈夫とか言いながら笑うって失礼極まりないよ!
と思ったけれど、相手はお客様。
平静を装ってレジスターの前に立つ。
全身から漂う油の臭い。
早くお風呂に入りたいよぉ。
「500円、ちょうどいただきました。こちらレシートになります」
油やらホコリやらがついた手でレシートを渡すワケにもいかず、運良く近くにあったウェットティッシュで軽く吹いてから笑顔で手渡した。
そしたら
また笑われた。
一体私の何がそんなにおかしいのだろう?
変な顔してた?
「あのさ、いちいちおもしろすぎ!」
アハハハ!
久しぶりにこんなに楽しそうに笑ってる人を間近で見た。
男子にはなんとなく近寄りがたくて、自ら話しかけるなどできなくていつも遠目から青春の1ページを眺めている。
そんなわたしにとっては、新鮮そのもの。
搾りたてのフレッシュフルーツジュースを飲んだって感じ。
例えが変だけど…。
再び彼の顔を見ると、バッチリと目が合った。
わたしより10センチ以上背の高い彼に見下されているように感じる。
そういえば、濡れていた彼の髪はいつの間にか乾いていた。
ぺちゃんこだった髪型が空気を吸い込み、ふんわりとして、ちょっとだけクセのある髪から甘い匂いが漂ってきた。
「キミってここの娘?」
「まぁ、はい、一応…看板娘です」
「それ、自分で言う?」
「へ?」
「まあ、いいや」
まあ、よくない!
わたしのこと笑いすぎでしょ!?
失礼だから!
なんて、やっぱり言いません。
わたしは笑われっぱなしはイヤだし、今度来たら仕返しをしてやろうと思って彼に名前を聞いた。
「キミの名は?」
「は?」
「キミの名は?」
この人、分かってない!!
有名なアニメ映画に引っ掛けているのに、なんで分からないの?!
ズレすぎ!
時代遅れ!
仕方ない、先に名乗ろう!
「わたしは、星名湖杜です。…で、アナタは?」
「オレの名前って聞く必要ある?」
「あります!大有りです!それがウチのモットーです!」
仕方ねぇなあ…。
彼の口はそう発音しなかったけど、わたしの目にはしっかり映りこんだ。
「オレは…」