嵐を呼ぶ噂の学園① とんでもない学園に転校して来ちゃいました!編
2階には誰もおらず、このまま終了かと思われたが、そんなことはなかった。


3階の深海エリアに彼女はひっそりと入り浸っていた。


オレは彼女を驚かさないように、差し足忍び足で近づき、優しく声をかけた。



「あの…すみません」



オレの蚊の鳴くような声に彼女は敏感に反応した。


ビクッと肩が一瞬上がったかと思うと、そのままオレに顔を向けた。



マシュマロのように柔らかそうな白い素肌に、青の花が散りばめられた白地のワンピースが良く似合っていた。


髪は漆黒で肩の当たりで切りそろえられ、足元は黄色のパンプスで華やかさを出し、手にはバスケットみたいなバッグ(確か…カゴバッグ?)を持っていた。


わりと人間観察は好きで人の行動は見るが、女性の、しかも同年代の衣服をマジマジと見てしまったのは、この時が初だった。

  

「あっ、もしかして閉館時間ですか?」



「…えっ、あっ、はい。あと5分ほどで…」



見とれていた…のかもしれない。


見るからに女性らしく、品があって華やかで清楚で…。


オレの思い描く女性像にピタリと一致していた。


話せそうな気がした。

 
気の強い幼なじみと違い、柔らくて暖かな雰囲気が漂っていて、オレは安心して言葉を紡いだ。



「深海魚、お好きなんですか?」



「はい、そうなんです!
ここに展示されてる中ではメンダコが1番ですかね。
でもやっぱり…リュウグウノツカイがダントツで好きです!
大好きすぎて自作のクリアファイルも作ったり、Tシャツに写真をプリントしたりしてるんですよ!」



深海魚が好きだと言う女子は聞いたことがない。


オレは、熱弁を奮う彼女に、一瞬、ほんの一瞬、熱を感じた。


一瞬で燃え上がって消えて行った炎は、儚げな線香花火のようだった。



「あっ…ごめんなさい。私ったら、つい…」



「別に大丈夫ですよ。…また、聞かせて下さい」




…?





オレ、


今、


なんて言った?




ーーまた、聞かせて下さい…!?




何言っちゃってんの、オレ!?


理性はどこ行った?


女子に心を乱されておかしくなっちゃったのか?



自分が発した言葉に動揺していると、彼女が口を開いた。



「また来ますね」
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