意地悪な君と秘密事情
数時間後、私はアパートの近くにあるカフェにいた。勿論、私の正面に座っているのは桐島くんだ。


……まさか、本当にまた私の部屋に戻って来るとは思わなかった。


紅茶を飲みながらチラッと正面に座っている桐島くんを見る。


優雅にコーヒーを飲んでいる桐島くんは、私からの視線など全く気にしていない。


なんで私は桐島くんとカフェでお茶してるんだろう……。


「なに?ジロジロ見てきて」

「えっ……」


バッチリ桐島くんと目が合ってしまい慌てて逸らす私を見て、桐島くんはクスクス笑っている。


「そんなに笑わなくても良いでしょ」

「ホントに高梨って見てて飽きないわ」

「笑いながら言われるとイラッとするんですけど」


キッと睨みながら私はそう呟き、


「ずっと疑問だったんだけど、なんで桐島くんとカフェでお茶してるわけ?せっかくの休日が朝からハプニング続きで全く心休まないんだけど……」


私はため息を溢した。


「なんでって俺も高梨もまだ朝食食べて無かっただろ?」

「……だと思った。そう言うと思っていたよ。確かに朝食はまだ食べて無かったから有難かったけどね!」


……桐島くんなら真顔でそう言うと思っていたよ。
でもね、一瞬でもトキメキそうになった私の気持ちを返せ。


内心イラつきながら私は小さくため息を溢す。


「じゃあ、これ食べ終わったら私は帰るから。あと、これは私が注文したもののお金」


我ながら可愛げの無い言い方だと思いながらもそう言って、テーブルの上にモーニングセットの代金を置いた。


いつだって私の心の中に勝手に入ってくるのは彼。


あの日から何度も何度も忘れようと思っていて、考えないように必死に日々を過ごしていた。


月日さえ流れれば、あの日失恋した傷が癒えて進めるものだと思っていた。


そして月日が流れて少しずつ前に進めていたと思えていたのに、彼とまた再会してしまった。


神様がいるとしたら、どれだけ意地悪な神様なんだろう。


「……高梨はさ」

「何よ?」

「……ううん、やっぱりなんでもないや」


桐島くんは何か言いたげに一言呟くと、口を閉ざす。


そのままその日は桐島くんとカフェでモーニングを食べた後、少し話をして私は桐島くんと別れアパートに戻った。


“……高梨はさ”


あの時、桐島くんは何かを言いかけていた。その時の桐島くんの表情がずっと頭の片隅にあって引っ掛かっている。


「……あーもう!!なんで私がこんなに気にならなきゃいけないわけ!!」


そう叫んでため息が零れ落ちる。


「……なんか私、桐島くんと再会してからずっと心が乱されていない?」


そう呟き私は苦笑する。


――――これ以上、絶対に期待はしない。


失恋したあの日、そう学んだはず。


なのに、桐島くんと再会した日から少なからず心が乱されているのは何故だろう。


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