意地悪な君と秘密事情
高校の頃、クラスでも割と人気者だった桐島くんはみんなの中心にいるようなタイプだった。だからといって他人を見下すような嫌味なタイプでは無く、明るい性格の彼の周りには自然と人が集まっていた。


そんな桐島くんにあの頃の私はいつの間にか恋をしていた。


『ごめん、俺には好きな人がいるから』


あの頃の桐島くんがそう言っていたのを聞いて、私の恋は終わった。


「…………」


ずっと記憶の片隅にしまっていた記憶が少し蘇る。


「はあ~……何今更思い出してるのよ、私は」


何度目か分からないため息を溢す。


その時タイミングよく携帯が鳴り慌てて出れば、電話の相手は優奈だった。


『美和ちゃん、今何してる?』

「何って……家にいるけど」

『暇だから遊びに行ってもいい?』

「うん。いいよ」


私がそう返事をすると、優奈は嬉しそうに“じゃあ今から行くね”と言って電話を切った。


暫くすると優奈が私の部屋にやって来た。


「お邪魔しま~す」


優奈はそう言って部屋に入ってくると、ソファーに腰かけた。そんな優奈に麦茶を出して私はクッションの上に座った。


「ねえ、美和ちゃんってそういえば桐島さんとはあれから会ってる?」


突然優奈に桐島くんの話題を振られ、飲もうとしていた麦茶を吹き出しそうになる。


「え゛……っ?」

「えっ……て、前に“また後で話しよう”って言ったじゃん」

「あー……確かにそんなことを言っていたような……」


正直、ここ数日桐島くんと色々接点があり過ぎてすっかり忘れていた。


「……その顔は、桐島さんと何かあったんだ?」

「な、何にも無い!」

「怪しいんですけど」

「本当に優奈に話すほどのものは何にもないってば」


優奈はそう言っている私をじーっと見つめ、“本当に何も無いの?”と聞いてきた。


「まあ何も無かったかと言えば嘘にはなるけど……」

「え!何々?!」


キラキラと瞳を輝かせ私を見る優奈に負けて昨日から今朝にかけての話をした。


「昨日の仕事帰りに桐島さんに偶然会って一緒に飲んで、流れで桐島さんがお泊りしたって……一気に急展開だね!!」


なぜか嬉しそうな優奈を横目に私はため息を溢す。


「っていうかお泊りしたってことは、桐島さんと……」

「何も無かったから。桐島くんは送ってくれてそのまま疲れて寝ちゃっただけ」

「ホントに?酔った勢いは無かったってこと?」

「桐島くんもそう言ってたし」

「ふーん……?」


優奈はそう呟くと、


「でも桐島さんと再会してから良い意味で美和ちゃんが変わったよね」


私を見てニコリと笑みを溢す。


「…………え?」

「美和ちゃんってずっと恋愛はしないって言ってたでしょ?合コンも毎回誘っても断られてたし、ずっと彼氏も要らないんだろうなって思ってたけど……。
あの日、桐島さんと会った時、美和ちゃんいつもと違ったから。もしかしたら桐島さんなら美和ちゃんを変えられるのかなって思ってたんだ」


戸惑っている私を見て、優奈は嬉しそうに微笑んだ。

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