意地悪な君と秘密事情

「私は美和ちゃんの過去とか知らないから、桐島さんは美和ちゃんの高校の頃の同級生ってことしか知らないから、確信は持てないけど。
でも何となく桐島さんに会った時に美和ちゃん一瞬だったけど恋する乙女の表情をしてたよ」

「え……？」

「だから何とな～く、桐島さんなら美和ちゃんを変えられるのかなって思ったわけ」


優奈はそう言って微笑むと、私を見る。


優奈は私が高校の頃に桐島くんに振られていることを知らない。


だから、私が恋愛をしないって思っている本当の理由も知らない。


「……桐島くんにとって私はきっとただの元同級生ってだけだと思うよ」


――――……そうじゃなければ、あの日何で私は振られたの？って事になってしまう。


「……そうかな～？」

「そうだよ。まあ偶然合コンで再会したのは私もビックリしたけど。私と桐島くんは何もないよ」


私はそう言って苦笑する。


「そういう優奈は進展はあったの？」

「前にも言ったけどご飯に行く約束して、明日出かけるんだ」

「そうなんだ。じゃあ楽しみだね」

「うん。明日は頑張ってお洒落しなきゃ！」


そう言っている優奈を見て私も微笑む。


「頑張ってね、優奈」

「うん、気合入れて頑張るよ～！」


可愛い優奈ならきっと柏木さんとのデートも上手くいくと思うし、きっとすぐ彼氏が出来ると思う。


「何か進展があったら美和ちゃんにも言うね！」

「うん、楽しみにしてる。頑張ってね」


それから優奈とは仕事の話をしたり、いろんな話をしたりしてあっという間に時間が過ぎた。


優奈が帰った後、シンと静まり返る室内。


……一人暮らしだとこういう時に無性に寂しくなるんだよね……。


普段は一人でいるのが当たり前だからこの静かさが普通だけど、誰かが遊びに来て帰った後の静けさは尋常じゃないほど寂しさを覚える。


まあそれも一時的なものだけれど。


そんなことを考えながら私は仕事の書類を出そうと鞄の中身を見ていると、合コンの日に渡された桐島くんの名刺が鞄の奥底から出てきた。


「あ……」


裏面に書かれた桐島くんの連絡先を見つめる。


半ば強引に渡されたからつい受け取っちゃったけど……これはどうすればいいの？


勝手に連絡先を登録するのも気が引けるし、かと言って登録しても特に用事もないのに私から連絡するのも何か違う気がする。


数分どうするか悩んだ挙句、渋々自分の携帯に桐島くんの連絡先を登録した。


「……特に用はないけど、連絡先をくれたんだし……一応ね」


誰に言うわけでも無いのだが少しだけ言い訳をしながら携帯に登録された桐島くんの連絡先を私は静かに見つめるのだった。