意地悪な君と秘密事情
私の方をじっと見つめている桐島くんの視線から逸らすように私はひたすら足元の床を見て小さくため息を溢す。


……どうして最近、頻繁に会ってしまうんだろう。


会わないように。
忘れなきゃ いけないのに。


そう考えれば、考えるほど 桐島くんが目の前に現れる。


「高梨、本当に大丈夫か?ぼんやりしてるけど……」


順平は心配そうに呟いて、俯いていた私の顔を覗き込む。


「だ、大丈夫!!」


突然の至近距離に驚きつつ顔を上げれば、こちらのやり取りを静かに見ていた桐島くんとバッチリと目が合う。


なんだろう。このすごーい気まずい空気……。
特に何か後ろめたいことをしたわけではないはずなのに……。


エレベーターという密室の中に私と順平と桐島くんと桐島くんの同僚と思われる美女の四人という謎な組み合わせに、私はただただ心身の疲労が蓄積されるばかり。


「伊織」


桐島くんの隣に立っていた美女は桐島くんを呼ぶと、小声で二人で何か話していた。


……本当に美女と並ぶと絵になるよね。
桐島くんもカッコイイから余計美男美女って感じで似合っているようにも見えるし。


そんな二人を見て少しだけ胸がチクリとする。


「じゅ、順平」

「ん?どうした?」

「私、さっきの会議室に忘れ物したの思い出したからエレベーター降りたら取りに行くね」


私は早口で順平にそう言うと本来降りる階より1つ前の階のボタンを急いで押す。


「は?じゃあ俺も一緒に行こうか?」

「大丈夫。忘れ物って言ってもボールペンだから一人で行くね」


もちろん、 忘れ物をしたというのは咄嗟の嘘だ。


とりあえずこの場所から理由を付けて早く離れたかった。


私がボタンを押した階にエレベーターが止まり扉が開くと急いでエレベーターから降り、足早に階段に向かった。


咄嗟に出た嘘とはいえ、用もない階をうろつくわけもいかずとりあえずエレベーターの側にあった階段に避難した。


「…………」


ため息を溢し、私は壁に寄りかかった。


……駄目だ。桐島くんに会う度に心が乱される。


恋愛はしない。


そう決めたのに一瞬ぶれそうになるのは、きっと桐島くんが私の昔好きだった人で、お互い結婚もしていなければ恋人もいない。


そんな共通点があった。ただそれだけのはず。


こじらせまくった代償が、今になって回ってくるなんて。


「……何、嘘ついて逃げてんだよ」

「……桐島くん」


――――神様はどうして私と彼をこのタイミングでもう一度出逢わせたのでしょうか?


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