意地悪な君と秘密事情
桐島くんは私の目の前で止まるとじっと私を見る。


「ちょっと来て」


いつものように有無を言わせず私の手を掴むと階段をゆっくり降りて会社を出る。


「ね、ねえ…外に出て来たけど桐島くんってさっきの一緒にいた綺麗な人は?」

「打ち合わせも終わったから職場に戻った」

「じゃあ桐島くんも職場に戻らないと……」

「ねえ、高梨ってさ 俺のことそんなに苦手なわけ?」


私の手を掴んだまま数歩先を歩く桐島くんはポツリとそう呟いた。


「え?」

「まあ恋愛しない、彼氏はいらないっつーから分厚い壁を作られるのは想定内だったけど……」


そう呟いている桐島くんの表情は見えない。


「……あの同僚くんと俺とは態度が全然違うじゃん」

「そりゃ順平は今一緒に企画を進めてる仕事仲間だし頼りになるから……信頼はしてるけど」

「この前、俺が言ったこと覚えてる?」

「……この前?」

「俺と恋愛しない?って言ったやつ」

「……覚えてるけど」


桐島くんは立ち止まると振り向き、じっと私を見る。


「な、何よ?」

「絶対高梨を振り向かせるから」

「……は?」

「今は“元同級生”って括りで我慢するけど、いつか高梨を俺に振り向かせるから覚悟して」


キッパリと告げられた宣戦布告。


「な゛……っ?!」



……今、 なんて言った……?


突然の出来事に固まる私を見て桐島くんはニコリと微笑み、


「覚悟してね」


意地悪な一言を囁いた。


「…………絶対、嫌!この前も伝えた通り、私は恋愛するつもりもないし、彼氏もいらないから!
振り向かせるって言われても絶対振り向くつもりはないし、好きになるつもりもないから!期待しないでください」


ドキドキうるさいぐらい鳴り出す心臓の音とは裏腹に早口で私は桐島くんに向かって言い返した。


あの日止まった時計の針が十数年という月日が流れて、現在(いま)動き出した 。


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