意地悪な君と秘密事情
あれから数日が経ち、私と桐島くんの関係は特に変わらず、あの日以来桐島くんにも会うことは無かった。


「…………平和だ」

「ん?美和ちゃん、どうしたの?そんなしみじみと呟いちゃって……」


社員食堂で昼食を取りながらぼんやりと呟いた一言を聞いていた優奈は不思議そうに首を傾げている。


「いや……最近びっくりするぐらい桐島くんとの遭遇が多かったから久しぶりに何も無くて平和に過ごせてるな~……って思って」


あの合コンで再会した日以来、何かと偶然桐島くんと出会う機会が多かったこともあって、こんなにも何もない日が久しぶりに感じていた。


……なんか私の脳内、麻痺していない?
色々偶然の出来事がずっと続いてたから、逆に平和が懐かしく感じるって……。


思わず零れた私のため息を聞いて優奈はクスッと笑みを溢した。


「なんだかんだ言って美和ちゃんも桐島さんに会えるのを楽しみにしてたってこと?」


私にそう尋ね、優奈はニヤニヤと笑みを溢す。


「別に、楽しみにはしてないよ」

「へえ~。ホントかなぁ?」

「本当、本当」


私は優奈にそう言いながら苦笑する。


「そういえば、この前柏木さんとデートしたんだ~」

「どうだったの?」

「すごい楽しかった。さすが柏木さんって感じ。デートプランも良かったし、何より全てにおいてスマートで余裕があったっていうのかな?今まで付き合った人たちよりも大人の余裕みたいなのが感じられた」


優奈は嬉しそうにそう言う。


「今回のデートは楽しかったみたいで良かった」

「うん!本当に楽しかった~」


また行きたいな、と優奈は呟くとハッと何かを閃いたように勢いよく私の方を見る。


「な、何……?」

「美和ちゃん、私に協力してくれる?」

「いいけど」

「じゃあ、私と柏木さんと美和ちゃんと桐島さんでダブルデートしよう!」

「は?」


きょとんとする私を見て優奈はニヤッと笑うと、


「そうと決まれば柏木さんに連絡しなくちゃ!」


そう言って携帯を取り出しメールを打ち始めた。


「ちょっ…優奈、ダブルデートって何で突然……」

「だってこの前二人で出かけたばっかなのにまた柏木さんとデートしたいって言ったら、ガツガツし過ぎって思われそうじゃん?それに今さっき美和ちゃん、協力してくれるって言ったよね?」

「う゛……っ」

「だからワンクッション挟むためのダブルデートね」


優奈はそう言って再び携帯に視線を戻す。


……普段は優奈って向こうから言い寄られることが多いけど、そういう時の優奈ってグイグイいくんだよね……。


それが私には真似できない優奈の良いところのひとつだが、巻き込まれるとは思ってもいなかった。


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