意地悪な君と秘密事情
仕事に没頭し続けて気づけば、時計の針は20時を過ぎていた。


「うわ……もうこんな時間?!」


私は時計を見てびっくりする。


今日は残業せず帰ろうと思っていたのに……没頭し過ぎた。


ガクリと肩を落としながら帰る支度をするために鞄に荷物を詰めていると、鞄の中に入っていた携帯が光っていることに気付いた。


メールの差出人はもちろん優奈。


【 デートの日を決めたんだけど今週の土曜日はどうかな?美和ちゃん大丈夫? 】


……今週の土曜日か~……。


残念なことに断る口実のスケジュールは特にあるはずもなく、嘘をついてまで断る気にはなれず、私は優奈にメールを返す。


【 特に予定は無いから大丈夫だよ 】


メールを送信すると私は携帯を鞄に入れて、職場を出た。


電車に揺られ、家に帰宅すると晩御飯を済ませお風呂にも入って、ゆったりする。


ベッドに寝転がりボーッとしていると、携帯が鳴った。


「……また優奈からかな」


そう呟いて携帯を取りメールを開くと、意外な人物からだった。


【 明日、仕事が終わったら飯行かない? 】


「ん?……順平からって珍しい」


仕事以外の内容で順平からメールが届くのは珍しく、普通の内容に驚いた。


【 企画も無事通ったし、お祝いってことで 】


私はメールの画面をしばらく見つめ、


【 了解。明日は定時で帰る予定だから大丈夫 】


そう打って返事をすると携帯を置いた。


“……高梨さんは、ただの友達だよ”


目を瞑れば、あの日の光景が思い浮かぶ。


あの頃の高校生だった私はずっと桐島くんに片想いをしていた。


それこそ、話せたり、席が近くになったり、ほんの些細なことでも嬉しかったし、幸せだった。


だから卒業して接点が無くなってしまう前に自分の気持ちを正直に伝えようと思って、あの日桐島くんを呼び出して告白しようと思っていた。


でも、タイミングが悪かったのか、それこそ運命の悪戯ってやつなのか、最悪なタイミングで告白することになってしまって、結局自分で終わらせてしまった。


「……」


正直あの出来事が無ければ、普通に告白してもしかしたら付き合えた未来もあったりなんて思ったりもした。


まあ、今更過去のことを振り返っても仕方ないって思っているけど。


だから、正直何で十数年後にこうして再会することになったのか、それだけが疑問だ。


「本当に、何で今頃……」


ずっと蓋をして見ないフリをして、気づかないフリをして、大人になったつもりでいた。


「会いたくなかったなぁ……」


気付かないフリをしてあの頃の気持ちに蓋をして、ずっと忘れたフリをした。


思い出すのは、あの頃の甘酸っぱい気持ちと、辛くて泣いた記憶。


恋愛は懲り懲りだと思っていたのに。
もう無駄に傷つくのは嫌だ。


< 19 / 20 >

この作品をシェア

pagetop