意地悪な君と秘密事情
目を瞑れば、ただただ桐島くんに片想いしていたあの頃の記憶を思い出してしまう。


ずっと昔に蓋をしたはずの遠い記憶。


「……忘れてたはずなのにな……」


ぽつりと呟いた言葉は誰かに聞かれること無く消えていく。


もう恋愛はしない。


傷つくのは嫌だ。


そう思って仕事に夢中になって頑張ってきたはずだったのに。


あの日、偶然再会したことで心乱されるなんて……。


「……何やってんだろう、私は」


溜め息を溢しながら鞄に携帯をしまうと、重たい足取りでオフィスを出た。


仕事帰りの人で賑わう街中を一人歩きながら、再び小さな溜め息を溢す。


「高梨」


ぼんやりしながら歩いていた私の肩をポンと叩き突然名前を呼ばれて驚いて振り向くと、心配そうな表情を浮かべる順平がいた。


「すごい深刻そうな顔して歩いていたけど大丈夫か?」

「あ、うん!大丈夫!ちょっとぼんやり考え事してただけ!」


順平に向かってそう答えながら無理矢理笑顔を作る。


「……嘘。高梨って嘘下手過ぎだろ」


私のおでこにペチンとデコピンしながら順平はそう呟くと、


「……よし!今度行こうって行ってた打ち上げ、今から行こう!」


ニコリと笑みを浮かべた。


「……そうと決まれば出発〜!」

「え!ちょっ……順平?!」


半ば強引に私の手を引くと順平は笑顔で歩き出した。


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