恋に落ちたらキスをして
 同居していた時と同じように隣に座られて「尚?」と呼ばれた。
 呼ばれるだけで胸が高鳴るほどの気持ちだったのかと情けなくなりつつも「ん?」と綾を見た……はずだった。

 視界が一瞬、無くなって、それからすぐに目の前に綾の苦笑した顔があった。

「お酒くさい。」

 柔らかい温もりが抱きついてきて、自分の腕の中で起こった状況に目を疑った。
 キス……された?

「尚こそ意地っ張りじゃない。
 ……そんなところが好きなんだけどね。」

「え………。」

 腕の中に勝手に収まっている綾の声は近くてよく聞こえている。
 聞き間違えるはずはないはずで……。

「何?キスしたら相手のどこが好きか言うんでしょ?」

「あ……うん。ペナルティー。
 好きなとこ、無くても探すって……。
 あれ?太郎さんのところに戻って……。」

「放っておけないのは尚のことなんだけどな。」

「えっと……。」

「ごめん。嘘。わざと太郎さんと思われそうな事を言ったわ。
 尚にはずいぶん前から落ちてたのよ。
 でも負けを認めたくなくて、わざと揺さぶるようなことをしたの。」

 ずいぶん……前から……………。

「じゃ女の子を断らなくてもいいのにっていうのも?」

「そうね。断ってくれなきゃ嫌だわ。」

 少し拗ねたような声に鼓動が速くなる。

「太郎さんに会いに行ったのも嘘?」

「それは本当。彼とのアパートに置いてきた荷物を処分しに行ったの。」

「そんなことしなくても……。」

「でも私が処分しなきゃ太郎さんがずつと保管してるのも気持ち悪いでしょ?
 彼、捨てれるような人じゃないわ。」

「それは……そう…だけど。」

「処分して、本当に終われたなぁって思えたから、やっと自分の気持ちを言えるなって思ったのは言い訳に聞こえる?」

 酔っていて、目が覚めたら夢でしたってならないのかって思わなくもない。
 それでも自分にもたれかかる綾の体に腕を回した。

「綾が出て行く時に俺が……気持ちを言わなくても戻ってきた?」

「そうね。何か理由をつけて、この部屋の方が広くて住み心地がいいんだものとか。」

「なんだ。じゃ言ったもん負けか。」

「さぁ。どうかしらね。」




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