眠り姫に恋したのは年下御曹司
それでも彼は笑みを浮かべている。


人目を気にする男だ。



「余所余所しいな、莉乃。」


「ただの同期でしょ。」


「冷たくない?」



止めていた足を動かしてエレベーターホールに向かえば、隣に並ぶ大樹が目の端に映る。



「小川は京都支社でしょ?」


「小川って。大樹って呼べよ。」



大樹…………絶対に呼ばない。



『大樹、誰よ。』


『ん?彼女?』



大樹に言われた言葉が蘇る。


別れた日、京都の大樹に連絡もしないで会いに行った私の目の前には…………大樹と若い彼女がいた。


彼女は『大樹』と呼んでいた。


そして大樹は疑問形で答えた。


私の心は砕けた。


そんな大樹を名前で呼ぶ?


絶対に呼ばない。



「莉乃、冷たくない?」



馴れ馴れしい大樹が私の肩を抱く。


悪寒が走る。



「や…………。」


「莉乃、誰?」



デジャヴのような会話だと思った。
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