眠り姫に恋したのは年下御曹司
「私は消したいよ、小川との思い出なんて。」


低い声が吐き出されていた。


足を止めて隣を歩く大樹を見上げれば、同じように私を見下ろす大樹の目と合う。


会社帰りの人々が私達を避けるように歩いていく。


唇をぎゅっと噛み締める私を大樹が見つめている。



「俺は後悔してる。」


「もう遅いよ。私と小川は終わってる。」


「それでも後悔してる。ずっと忘れようとしても忘れられなくて…………研修で上京する機会にヨリでも戻せたらって。」


「無理。裏切ったのは大樹だよ。」


「そんな事はわかってる。」


わかってる?


全然分かってないから、そんな言葉が言えるんだ。


私がどんな気持ちでいたか。


どんなに傷ついたか。


どんなに惨めな思いをしたか。



「莉乃、俺は後悔してる。」


「もう遅い。」


「それでも伝えたかった。」



目の前に立つ大樹が私に頭を下げた。



「ごめん。」



呟かれた大樹の声が掠れていた。
< 156 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop