葵くん、そんなにドキドキさせないで。
布団から少しだけ顔を出して、不安そうに俺を見つめる。
「勝手にキスされてんなよ。バカ」
イライラする。本当に。
らしくない自分にも、イライラする。
「俺のことだけ見て、俺のことだけ考えてればいいんだよ、田中さんは」
田中さんは、ただの女避け。
それなのに、どうして俺は……。
「……忘れて」
「え?」
田中さんのほっぺたにそっと手のひらを添えた。
「大野にキスされたこと、忘れなよ」
驚いたように見開いている田中さんの瞳に、余裕のない顔をしてる自分がいた。
本当に、訳分かんねぇ。
「……じゃないと、俺がどうにかなりそう」