葵くん、そんなにドキドキさせないで。
■田中さん、俺の言葉をよく聞いて。
口を閉じてしまった葵くんは、悔しそうに眉を寄せていた。
ねぇ、葵くん?
……もしかして、私のことをまた困らせようとしてる?
だからさっきみたいなことを言ったの?
何も言わない葵くんに、また少し泣きそうになった。
だから俯いて、上履きのつま先をジッと見つめて。
「……彼女のフリをしてた時はね、」
声が震えないように、お腹に力を込める。
「葵くんが、ドキドキさせるようなことばっかりしてくるから、本当に困ったんだよ」
『田中さんの困った顔、なんかそそられるよね』
もう、本当に、タチが悪いね葵くんは。
「でも、もう私は葵くんの偽物の彼女でもないし、」
「田中さ、」
「"そういうこと"言うのも……やめよう?」