葵くん、そんなにドキドキさせないで。


苗字じゃなくて、下の名前で呼んでほしいなぁ……。


なんて、こんな考えはワガママかな?





「……あの、葵くん」





勇気を出して葵くんの名前を呼ぶ。


数学の教科書から視線を外さないまま「なに」って、葵くんは答えた。






「葵くんは、私のこと田中さんって呼ぶよね」


「それが名前だからね」


「……私は、葵くんのことは"葵くん"って呼ぶよ?」


「それが俺の名前だからだろ」






むぅっ……。


どうしたら葵くんに伝わるの?





「あのさぁ、田中さん」





膝の上でギュッと握っていた手のひらから視線をあげると、

ニヤニヤと笑顔を浮かべている葵くんが。


< 344 / 351 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop