葵くん、そんなにドキドキさせないで。
苗字じゃなくて、下の名前で呼んでほしいなぁ……。
なんて、こんな考えはワガママかな?
「……あの、葵くん」
勇気を出して葵くんの名前を呼ぶ。
数学の教科書から視線を外さないまま「なに」って、葵くんは答えた。
「葵くんは、私のこと田中さんって呼ぶよね」
「それが名前だからね」
「……私は、葵くんのことは"葵くん"って呼ぶよ?」
「それが俺の名前だからだろ」
むぅっ……。
どうしたら葵くんに伝わるの?
「あのさぁ、田中さん」
膝の上でギュッと握っていた手のひらから視線をあげると、
ニヤニヤと笑顔を浮かべている葵くんが。