リボンと王子様
「……何で泣くの……?」


優しい瞳が私を覗きこむ。


「……どうして私、なの……?
四年間も……私を探してくれたの?」

「……何でだろ、俺もよくわからない。
まるで違う世界から現れたみたいに綺麗な穂花の姿に目を奪われたのも事実で。
その瞬間、心を持っていかれた気がした。
離したらダメだ、探さなきゃって本能的に思った」


ソッと私の髪を一房掴んで、千歳さんは唇を落とす。

髪に鼓動はない筈なのに、ドクン、と心臓が大きな音をたてた。



「……見失って、すごく後悔した」

「私、あの日は公恵叔母さんが二十歳のお祝いに特別に綺麗にしてくれたの。
豪華なドレスもプレゼントしてくれて。
本当の普段の私は全然そんなんじゃ……!」



捲し立てた言葉を最後まで話せなかった。

……千歳さんが私の唇を自身の唇で塞いだから。

ソッと唇を放して、千歳さんが話を続けた。



「……俺はあの日、穂花の外見にだけ惹かれたわけじゃない。
外見も勿論妖精みたいに綺麗だったけど。
一番、穂花に惹かれたのは俺にくれた言葉だった」

「……言葉?」



怪訝な表情を浮かべた私の頬を千歳さんの細い指が優しく撫でる。



「幸運がおとずれますように、って言ってくれただろ?」


そう、覚えている。

あの日。

私が惹き付けられた漆黒の瞳に浮かんだ哀しみの色を少しでも和らげたくて……確かに私はそう伝えた。

今よりも幼かった私にはそんなことくらいしか思い付かなかったから。

千歳さんが抱えていた悲しみや苦しみを理解もせずに言ってしまった。

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