リボンと王子様
結局。

あの後、しばらくは千歳さんの腕から解放してもらえなかった。



何とか抱擁を解いてもらった後も、リビングのソファに隣り合わせに座ってずっと腰に手をまわされていた。

その合間に何度も髪や頬にキスを落とされて。

心臓が爆発しそうだった。



そんな風に男性に触られた経験が皆無の私はどうしていいか分からず終始真っ赤になっていた。

そんな私の様子を見て千歳さんはクスクスと嬉しそうに笑っていた。



私が持っていた大きな鞄に入った変装グッズには言及されなかったけれど。

今は何処に住んでいて、何をしているのか、どんな仕事をしているのかと根掘り葉掘り聞かれた。

住居を答えることはできたら避けたかったし、仕事なんて絶対に答えられない。



そう。

それは私が千歳さんについている最大の嘘だ。



私を疑うつもりは微塵も感じられない千歳さんを騙して、この部屋で『お手伝いさん』をしていること、それを伝えなければいけない。


だけど。


話せば、私に依頼をした有子おばさまのことも話さなければいけなくなる。

……私だけではなく有子おばさま、公恵叔母さんにも迷惑をかけてしまう。

そう考えると、正直に答えることができなかった。
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