リボンと王子様
これ以上嘘を重ねたくない私は、千歳さんの真向かいに住んでいることを正直に伝えた。

千歳さんは酷く驚いていた。

同時にかなりのショックを受けていた。



「……そんな近くに住んでいたのに気付かないなんて……。
……まさに、灯台もと暗しだな……」



……本当は私が避けていたせいでもあるんです、とは口が避けても言えなかった。

勘のいい千歳さんはこのマンションに住んでいることから、私の職場が公恵叔母さんと関わりがあると察した様子だった。



「……須崎株式会社で働いているの?」


感情が読み取れない低い声で聞かれて。


「……う、うん。
社長……公恵叔母さんの元で秘書を……」


と、休職中になっている職のことを話したら、何故だか千歳さんの瞳の温度がぐんと下がった気がした。


「……瑞希は?」

「み、瑞希、くん?
え、何で?」

「瑞希……もう少しで帰国するよな?」

「あ、そうなの?
ごめんなさい、私、知らなくて……あれ、でも瑞希くんと千歳さんって同じ橘株式会社に勤めていたんじゃ……」


言った瞬間。

明らかに不機嫌な表情の千歳さんがいた。


「……そうだよ。
同じ国際事業部。
担当地域は違ったけど。
……俺のことはどうでもいいよ。
穂花、瑞希に何か言われてないの?」


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