リボンと王子様
そんな幸せな毎日のなかで。

千歳さんに合鍵を渡された。



『お手伝いさん』としての合鍵は有子おばさまから預かっていたのだけれど。

葛城穂花、としては初めての経験で。



真向かいに住んでいるので、合鍵は要らないと言ったのだけれど。

渡したい、と半ば強引に渡された。



本当は合鍵を貰ったことはとても嬉しかった。

千歳さんの時間と空間に入り込む許可をもらったみたいで、心の中が温かくなった。

けれど、合鍵を貰っておいて私が渡さないわけにはいかず、散々催促されて渋々合鍵を渡した。


「……何でダメなの?」


渋る私に散々不機嫌な表情で問い詰める千歳さんをかわすことに骨を折った。


「……何か俺に知られたくないことがあるの?」


言われる度に後ろめたい気持ちが拭えなくて。

公恵叔母さんの許可をとらなきゃ、散らかっている部屋を見られたくない、とか思い付く限りの言い訳を並べたけれど千歳さんは折れてくれなかった。

挙げ句のはてには。


「……他に誰か男がいるの?」

と、あり得ない疑いをかけられてしまって、合鍵を渡した。


それから千歳さんはお手伝いさんが毎日来てくれている、と説明してくれた。

合鍵を持っていること、葛花穂、の素性の説明も。

俺の自宅に仕事とはいえ、女性が出入りしていることが不快なら考えるよ、とまで。


それは私だから、とは言えなかった。

気にならないから大丈夫、としか言えなかった。


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