リボンと王子様
千歳さんは基本的にとても公平で、優しい人だ。

それは葛花穂として過ごしている時にも幾度となく感じていた。


大企業を引っ張っていく人の器というか、そういうものを兼ね備えていると思う。

期間限定のお手伝いさんである私に対しても、雇用主として真摯に向き合ってくれる。


お給料も千歳さんが支払っていると有子おばさまから聞いた。

恋人にお給料をいただくことは何となく肩身が狭いというか申し訳ない。

しかも後々口座を確認すると、私が須崎株式会社でいただいている金額と同じ金額を支給してくれていて倒れそうになった。


指示は的確に伝えてくれるし、無理強いもしない。

何か要望や意見はないか、体調は大丈夫かと数日おきには電話で尋ねてくれる。

普段、顔を合わせることがない故の配慮だ。


白いリボンのことを話してくれた日の怪我のお詫びと言って、千歳さんは業務用のスリッパとエプロンをプレゼントしてくれた。

しかも使うことを躊躇う程の有名ブランドのものを。

お気持ちだけで、とお返ししたら明らかに不機嫌になり、受け取らなければ捨てると言い出すので不承不承いただいた。

今は大切に毎日使わせてもらっている。

昼食代金も別途手当てとして支払うと言われ、さすがにそれは辞退した。




千歳さんの秘密の引き出しを見てしまったあの日以来、スマートフォンに連絡をした時には、ほぼ出てくれる。

連絡がつかない場合も私の勤務時間内には折り返しの連絡をくれる。


就業時間を徹底してくれていて、常に残業していないか気を配ってくれている。

元々、持ち物が少ない人だけれど、基本的に整理整頓はしてくれているし、うんざりするほど部屋を散らかしたりもしない。

ゴミの分別もきちんとされていて、むしろ私は必要なのかと思うほど毎日室内は清潔に保たれている。


そして、葛城穂花である私には。
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