リボンと王子様
胸が痛くなるくらいの優しい、温かな瞳を向けてくれる。


普段はとても毅然とした態度の人なのに。

甘い声で私の名前を呼んで、恥ずかしくなるくらいに甘やかしてくれている。

多忙な時間を遣り繰りして時間を作ってくれていることを感じる。


けれど、そういったことを一切、言葉にも態度にも出さない。

私の何をそこまで大事に扱って、想ってくれるのかわからない。


仕事面の有能さは言うまでもなく、背負っている家名、人目を惹き付ける華やかな容姿。

何もかも揃っている千歳さんにおよそ及ばない私なのに。


ただただ、穏やかな蕩けそうな笑顔で、いつも私を包んでくれる。


「穂花」


名前を呼んでくれる声が甘すぎて。

抱き締めてくれる腕のなかは心地良すぎて。

その温もりが優しすぎて。


私の些細な表情の変化にも敏感な彼は。

いつも私を気遣ってくれる。


「穂花が話してくれることは何でも聞くよ」

「話したいことはない?」


そう言って髪を撫でてくれる手が心地よくて。

全てを忘れてしまいたくなる。


このままじゃいけない。

そう思うのに。

本当のことも話せない私は。

千歳さんに甘えているだけの最低な意気地無しだ。


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