リボンと王子様
『お姉ちゃん!
明日の夜、泊まりに行ってもいい?』


妹の舞花が昨夜、電話をかけてきた。

舞花は時折、泊まりにきている。

公恵叔母さんのところで働く前は、一緒に暮らしていたので、よく二人で夜通しお喋りをしていた。


私の三歳年下の舞花は、現在市内にある大学の英米文学科に通う大学生だ。

因みに樹くんは、同じ大学の経営学部に通っている。


就職先について迷っていると以前の電話で話していた。

恐らくその相談だろうと思って了承した。


いつものように私は千歳さんの自宅で仕事をしていた。

明確には言われていないけれど、この仕事を始めてもうすぐ三ヶ月になる。


約束の期限がやってくる。


未だ千歳さんに話せていない私は、このまま期限を迎えて二度と『葛花穂』として現れなければいいかとまで思うこともあった。

……とてもずるい方法だけれど。


溜め息を呑み込みながら、窓を開けた。

ムッとした湿気を含んだ空気が室内に流れ込む。

エアコンでカチンと冷えた肌には少し心地よい。


七月も下旬になり、連日暑い日が続いている。

日が長くなり、夕方になってもまだまだ日中のような明るさと暑さが漂う。


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