リボンと王子様
「……その、ウッカリ時間を忘れてしまっていて……」

「は?
残業はするなっていつも言ってるだろ?」


宿題を忘れたことを叱られている小学生と先生のような私達の会話に、田村さんが助け船を出してくれた。


「……あの、響様。
差しでがましいようですが、会社のほうにお戻りにならなくてもよろしいのでしょうか……」

「あー……そうだな……葛さん、ちょっと待ってて。
資料を取ってきたら自宅まで送るから」


腕時計を見ながら千歳さんが早口で言う。


「えっ?
い、いえ、結構です!
お忙しい響様にそんなことまでしていただく訳には……普段通りに帰宅いたしますから!」


全力で辞退する私に。


「車で来てるし、大丈夫だから。
とにかく待ってろよ」


言うが早いか、エレベーターまで早足で歩き出す千歳さん。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」


私の懸命の引き止めも無視して行ってしまった千歳さん。

送って貰うなんて無理に決まっている。

一難去ってまた一難。

思わず頭を抱えたくなる。


「穂花ちゃん、早く!」


田村さんが私の手を引っ張った。


「田村さん……?」

「今のうちに着替えて、本来の穂花ちゃんの姿に戻って隠れていて。
響様が戻られたら葛さんは出ていかれました、って説明をするわ。
……後で穂花ちゃんが叱られてしまうかもしれないから、そこは申し訳ないのだけれど……」

「た、田村さん!
ありがとうございます、お願いします
千歳さんに叱られるのは大丈夫です、気にしないでください」
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