リボンと王子様
頭を下げる私に。


「叱られないといいのだけれど……ほら、穂花ちゃん、早く早く!」


田村さんが私を促す。

控え室で仕切りのカーテンをひいて、物音を出来るだけたてないように、急いで着替え始めた時。

田村さんの声が離れた場所から聞こえてきた。


「……ええ、響様のお手を煩わせるわけにはいかないと仰ってました。
響様にお気遣いへの感謝と先に帰宅する謝罪を伝えて欲しいと……」

「何で先に帰ってるんだよ……」


少し苛ついた様子の千歳さんの声に、真夏だというのに背筋が冷たくなる。

同時に鞄に入れたままの連絡用スマートフォンが着信を告げる。

マナーモードを解除していたため、音が響く。

慌てて連絡用スマートフォンをひっつかみ、マナーモードを設定する。


……電話までしてくるなんて……!


「出ないな……。
帰ってしまったなら仕方ない……か。
俺も会社に戻ります。
そう言えば……瑞希はもう帰りましたか?」

「いえ、お姿は拝見しておりませんが」

「……そうですか」

「お姿を拝見いたしましたら、何かお伝えいたしましょうか」

「いえ……大丈夫です」

「行ってらっしゃいませ」


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