リボンと王子様
舞花が帰った後。


「……あの、立ち話させちゃってごめんね。
よかったら座って……」


恥ずかしさと気まずさを打ち消すように、話しかけた私を。


グイッ。

千歳さんが強引に私を抱き締めた。

私の肩口に千歳さんが顔を埋める。

サラサラの黒髪が首筋にかかる。


「ち、千歳さん?」

「……緊張した……」


弱々しく吐き出された言葉に。

私は一瞬目を瞬いた。


緊張……?

千歳さんが?

まさか、舞花に?


「う、ウソッ」


驚いて声に出すと。

不機嫌な声が肩口から返ってきた。


「……緊張するに決まってるだろ。
いくら知っているとはいえ、好きな人の妹だぞ」


不貞腐れたような様子が何だか可愛らしくて。

思わずクスリ、と声を洩らした。

そんな私を覗き込む綺麗な二つの双眸。


「……もしかして。
付き合っている、って認識なかったの?」

「……え」


形勢逆転。

急にいつもの調子に戻りだした彼に焦る私。


「……俺、あんなに好きだって、もう離さないって言ってたのに、穂花には全然俺の気持ちは伝わってなかったわけ……?」


私を熱く見つめる瞳に宿る妖しい光。

逃れようとするけれど、ガッチリ腰を掴まれて動けない。
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