リボンと王子様
「……ごめんなさい。
謝って……すむ話ではないけれど……傷付けてごめんなさい」


震える声で彼に伝える。

言葉をひとつ紡ぎだす度に涙が零れそうになる。


泣くな。

泣くな。

今、涙を流す資格は私にはない。


ギュッと唇を血が出るくらいに強く噛み締める。


「……否定しないの?」


感情が読み取れない声で千歳さんが私に問う。


「私が千歳さんを傷付けたのは事実だから」


俯いて、再び唇を噛み締める。

その私の唇に。

フワリと温かな何かが一瞬触れた。


「……血が出る。
噛み締めないで」


触れたのは千歳さんの唇。


見上げた漆黒の瞳は寒々としているのに、触れた唇は胸が痛むくらいに優しくて。

泣きたくなるくらいに温かい。

何処までも私を傷つけることを拒む。


……悲しくて切ないキスだった。



どうしてこんな時まで。

この人は優しいの。

最低だ、大嫌いだって言えばいい。

なじればいいのに……。


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