リボンと王子様
漆黒の瞳に私が映る。


「……頭を冷やしたいから一人になりたい。
悪いけど先に帰って」


そう言って、千歳さんは私に背を向けた。

それは彼なりの拒絶。


一歩、一歩。


離れていく千歳さんの後ろ姿にかける言葉も見つからず、追い縋ることさえできず。

ただ私はそこに立ちつくした。

離れていく距離が、私達の心の距離のように思えた。


「……ごめ……んなさい」


吐き出した言葉は去っていく彼には届かない。

きっともう。

私のどんな言葉も彼には響かない。

当たり前だ。

それだけのことをした。


傷付けた。

大切な人を。


裏切った。

大好きな人を。


わかっていたことだった。

嘘を重ねた私の代償。


その重さが今頃になって哀しいくらいにのしかかって。

失った温もりに心が粉々に砕け散る。



ポトリ。



堪えきれずに零れ落ちた涙が乾ききったアスファルトに染みをつくった。


嗚咽がもれる。

泣く資格なんてない。

流れおちた涙は苦くて。

ただ、ただ、張り裂けそうなくらいに胸が痛かった。

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