リボンと王子様
どのくらいの時間が過ぎたのだろう。

靄がかかったようなボンヤリとした頭のなかに。


コツコツ……。


足音が遠くから微かに聞こえた気がした。


ハッとして玄関のドアを見つめた。

私の玄関ドアには何の変化も見られなかった。

むしろ帰宅してから何の変化もなかった。


室内が夜明けの光りに仄かに包まれていた。

……どうやら私は千歳さんを待ちながらウトウトしてしまっていたようだった。


……さっき聞いた音は……夢?


頭を軽く振る。


ガチャガチャ……。


玄関ドアが開く音が聞こえて。

私は弾かれたように立ち上がった。


バンッ。


そのままの勢いで玄関ドアを開け放つ。


「千歳さんっ……!」


思った以上に掠れた私の声に。

千歳さんがゆっくりと振り返った。


憔悴した顔が苦しそうに歪む。

その表情に息を呑む。



「……千歳さん……」



千歳さんは何も言わない。

手を伸ばせば簡単に触れられる距離なのに。

つい数時間前までゼロに近かった私達の距離は。

今はこんなにも遠い。
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