リボンと王子様
舞花が指摘したように、洗面所の鏡に映る私の顔は酷いものだった。


化粧はグチャグチャだし、目も真っ赤でパンパンに腫れている。

鼻も真っ赤だ。


私は自嘲気味に笑って、バスルームに足を踏み入れた。

ザアアッと勢いよく流れでるシャワー。


こんな風に。

全てが流れ落ちてしまったらどんなにいいだろう。


私の嘘も、千歳さんを傷付けた事実も。

ただの狡い現実逃避としか思えなくても。

今はそれを願わずにはいられなかった。


バスルームを出てリビングに戻ると。

舞花が食事の準備をしてくれていた。


「もう少し遅かったら、バスルーム見に行こうと思ってたんだよ」


険しい表情をしながらも、二人がけの小さなダイニングテーブルにうどんを置いてくれた。


「ホラ座って。
私もお腹空いたし、一緒に食べよう」


明るく笑う舞花に。

胸が温かくなった。


「……美味しい」

「でしょ?」

「うん、舞花のこのうどん、久しぶりに食べた」

「そうだっけ?
……じゃあ、全部食べてね」


無邪気に笑う妹の優しさが痛くて嬉しくて。

止まった筈の涙がまた零れそうになった。


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