リボンと王子様
屋上庭園の中は別世界だった。

扉一枚隔てた場所は幻想的な空間で。

全てが夢のように感じる。



この姿も。

花の名を教えてくれた見目麗しい彼の両腕が私の腰に巻き付いていることも。

彼の夜色の瞳が濡れたような艶やかさを纏う。




「……君は誰?」



ゾクリとする程艶やかな声が耳朶をかすめる。



「……今まで何処にいたの?」



まるでずっと私を探していたかのような切ない表情で。

スッと長い指が、私の遅れ毛を耳にかける。

冷たい、綺麗な指が耳朶に微かに触れる。


ドクンッ。


心臓がひとつ大きな音をたてた。

触れられた耳が熱い。

髪を耳にかける仕草がこんなにドキドキするものだなんて知らない。


「……触れていい?」


恥ずかしさに俯く私の頭に温かい何かが触れる。


僅かに身動ぎした私の眦に触れたものは。


彼の唇だった。


そっと。

そっと。

まるで壊れものを扱うかのように。

優しい唇が。

私の頬に触れる。

額に触れる。



初めて会った人なのに。

こんな風に触れられて。

どうして私は嫌じゃないんだろう。

どうしてこんなに胸が熱いのだろう。
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