リボンと王子様
「……瑞希くん……」

「悔しいから仲裁は絶対にしないけどな」


そう言ってハハ、と瑞希くんは明るく笑う。

その時、瑞希くんがチラリと腕時計を見た。


「……そろそろ行くよ」

「……気を付けてね」


それだけ言うことが精一杯。

他に何を言えばいいかわからなかった。


瑞希くんの気持ちが温かくて。

こんなときに何も言えない不甲斐ない自分が情けなかった。


瑞希くんが私を抱き締めていた腕をゆっくりとほどいた。

優しい香りが私から離れる。


「穂花」


とても穏やかな声で瑞希くんは私の名前を呼んだ。


「大好きだ。
だから、幸せになれよ」


そう言って、額にそっとキスをした。


国際線の保安検査場に入っていく瑞希くんの姿を見送って。

一筋零れた涙を指で拭って。

私は樹くんに連絡をした。


「話できた?」


空港の入口で再会した樹くんが私に尋ねたことはそれだけで。

私が頷くと。

大人びた表情で微笑んだ。


「俺は同い年の義姉さんより、穂花ちゃんを義姉さんって呼びたかったんだけどね」

「……!」


ペロッと舌を出して明るい調子で話してくれる樹くん。



自宅に送ってくれている道中、樹くんは私に何も聞かずにただ、大学での話や舞花や蘭ちゃんの話を聞かせてくれた。

私は二人の男性の優しさに胸がいっぱいになった。

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