リボンと王子様
火曜日の朝。


久しぶりにスーツを身に付けた。

昨夜アイロンをかけたスカートは皺ひとつなく。


腫れが少し残る瞳に念入りに化粧をした。

血色が悪い頬に明るいチークを付ける。

少し高いヒールのパンプスを履いて、私は家を出た。



眼前にある部屋の玄関ドアはいつも閉ざされたままで。

あの日以来、千歳さんの姿を見ていない。

夜遅い時間や、早朝に玄関ドアが開閉する慌ただしい音を何回か聞いた気がするけれど。

玄関を飛び出して会話する程の図太さは持てなかった。



千歳さんからは何の音沙汰もない。

あんな風に傷付けたのだから、当たり前だけれど。

何度か勇気を振り絞って電話をしてみたり、メッセージを送ってみたけれど、何の反応もなかった。



千歳さんは私とはもう終わったと思っているのだろう。

……それだけのことをしたのだから当然だ。

私に嫌気がさして、嫌いになってしまったのかもしれない。

そっと視線を千歳さんの玄関ドアに向けて、歩き出した。
< 195 / 248 >

この作品をシェア

pagetop