リボンと王子様
彼を見つめる。

咄嗟に身体を引き離そうとしても。

ガッシリとした腕がそれを阻む。

細身なのに、私の腰にある大きな手は確かに男性のもので。

私の力では振りほどけない。


だけど。


今。


私はこの人から本当に離れたいのか、わからなくなっていた。



深い深い闇色の瞳。

そこに浮かぶ優しさと纏う色香。

だけど。

それだけではなくて。

一瞬だけ彼の瞳に垣間見えた、寂しさの色が私を離さない。




「……もう少し触れていい?」



ソッと私の頬に長い指が添えられて。

ほんの一瞬。

彼の唇がフワリ、と私の唇に重なった。



羽根のように柔らかなその感触は。

簡単に私の思考を壊した。

優しくてどこか切ないキス。



そしてこれが私のファーストキスだった。




狂ったように心臓が早鐘を刻む。

何をどう言えばいいのかわからない。


どうして?

何故キスをするの?

そう尋ねたかった筈なのに。

意識を総動員させて絞り出した言葉は。


「……リボンを結ばせてください!」

「……え?」




キョトンとする彼。

言葉を放った私も動揺している。
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