リボンと王子様
「……本当はもっと早く千歳さんに全てを打ち明ければよかったの。
千歳さんの気持ちや優しさや温もりを失うことが辛くて。
言い訳ばっかりして、自分を正当化してた。
彼を傷つけるのが怖くて……ううん、違う」


言葉の途切れた私を公恵叔母さんが怪訝そうに見た。


「千歳さんに嫌われて私が傷付くのが恐かったの……。
ズルいのは私。
悪いのは私なの」


傷付くのが恐かった。

あの漆黒の大好きな瞳が冷たくなることが。

裏切りだと失望されて。

拒絶されてしまうことが恐かった。


傷付きたくなかった。

大好きな温もりも笑顔も手離したくなくて。

傍にいたくて。


薄氷の上に成り立つような幸せだったのに。

全てを見ないようにして、全てを先伸ばしにした。


そんな私が有子おばさまや公恵叔母さんを責めることなんてできない。

そんな資格なんてない。

私は有子おばさまに頼まれていた指示にさえ従わなかったのだから。


「……でも女性関係の調査、なんて。
穂花ちゃんを苦しめたでしょ?」


私の思考を読んだかのように公恵叔母さんが尋ねた。

私は苦笑しながら答えた。


「……ううん。
私、調査なんてできなかったの。
本来の雇い主である有子おばさまを欺いていたんだもの。
誰にも誠実になれなくて……最低だよ」
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