リボンと王子様
「い、嫌なことが今日はたくさんあったって……」

「あ、うん。
そうだね」



私の言葉に彼は驚きながらも、律儀に返事をしてくれた。

ただし、腰に回した手は外さずに。



「わ、私は今日素敵なことがたくさんあった日だったんです。
だから……」


そう言って私は、手探りで髪に編み込まれたリボンをスルリと引き抜く。

オフホワイトのリボンは夜の光のなかでキラキラ輝いていた。

腰に回された大きな手にそっと触れる。



「手を……お借りしていいですか?」



怪訝な表情を浮かべながらも、彼は手を差し出してくれた。



彼の手首にそっとオフホワイトのリボンを結ぶ。

静寂の中、シュッと私がリボンを結ぶ音が響く。

充分な長さがあったリボンは綺麗に彼の手首に収まった。
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