リボンと王子様
栄和堂は会社からすぐ近くにある百貨店にテナントを構えている。

本店は少し離れた場所にあるが、百貨店で取り置きをしてもらっているので、本店まで行かなくてよいと松永室長に言われた。


雨が降りだしそうな空を秘書課の窓から眺め、傘を持って出掛けた。


夕餉前の百貨店の地下は多くの人でごった返していた。

食欲をそそる香りが漂う。

あちらこちらから活気のよい声が上がっていた。


人波を縫って和菓子売り場に向かう。

顔見知りの店員さんと少しだけ世間話をして、商品を受け取った。

ここの上生菓子は味は勿論のこと、季節毎の商品が素晴らしく、目を楽しませてくれる。

私も大好きなお店だ。


おつかいを無事に済ませて再び会社に向かって歩き出す。

雨が降りだしそうなことを思い出して、地下街を通り抜けて帰社することにした。


私と同じような考えの人が大勢いるのか、ちょうど帰宅ラッシュにさしかかる時間のためか、地下街は混雑していた。

皆、足早に歩いている。


この地下街は幾つもの百貨店や、地下鉄、ホテルに繋がっている。

私もよく利用する道だ。


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