リボンと王子様
百貨店のショーウインドーを眺めながら歩いていると、周囲の女性達の視線が何処かに集中していることに気がついた。


「……カッコいい」

「素敵な人よねぇ……」


喧騒に混じって聞こえてくる言葉に。

ふと視線を向けると。


数メートル離れた場所に長身の男性の姿が見えた。

私の場所からはその男性の後ろ姿しか見えない。


ドクン。


心臓がひとつ、大きな音をたてた。


細身の引き締まった身体。

サラサラの黒髪。


まさか。

喉がカラカラになる。


その時、フッと男性が横を向いた。

思わず立ち止まってしまいそうな綺麗な横顔。

引き込まれそうな強い光を放つ瞳。


……千歳さんだった。


思わず声をあげそうになって、慌てて口を手で押さえた。


最後に千歳さんと会ってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

そんなことを忘れてしまうくらい、当たり前のように彼は私の目の前にいた。


誰をも魅了する容姿は変わることなく。

何度も夢の中で恋い焦がれた彼の姿に。

涙が込み上げた。



ドキン、ドキンと痛いくらいに打つ鼓動。



千歳、さん……!


心で精一杯彼の名前を呼ぶ。

久しぶりに目にする彼の姿に魅入られて、少しでも近付こうと足を動かす。
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