リボンと王子様
もつれそうになる足を何とか動かした時。

周囲の女性達の声が聞こえた。


「……美男美女ね、悔しいけど」

「やっぱりね、極上の男性にはパートナーがいるわよねぇ」

「でも目の保養ね!」


キャハハと楽し気に笑う声に。

心が急速に冷えて。

嫌な予感がした。


何のことだろう……。


答えはすぐに、わかった。

千歳さんの傍らには肩を抱かれた細身の女性がいた。


ベビーピンクの柔らかい素材のワンピースに、白いビジューの付いた華奢なサンダル。

フワフワと綺麗なカールが付いた、明るい茶色の艶々した髪。

恥ずかしそうにほんのり染めた頬で傍らの千歳さんを見上げている。


とても可愛らしい女性の横顔に。

一瞬で目の前が真っ暗になった。

周囲の喧騒も何一つ耳に入らず。

私の足は縫い付けたように動かなくなった。


二人はそのまま進んでいく。

二人の目の前にある入り口。


そこはこの辺りでも名の知れた高級ホテルだった。

その事実を目の当たりにして。


全てを悟った。

……千歳さんのなかで、もう私は終わった存在なのだと。
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