リボンと王子様
忘れることのないその声に、弾かれたように視線を向けると。
キョトンとする女性の隣りで千歳さんが私を見ていた。
懐かしくて愛おしい漆黒の瞳。
その瞳が心配そうに、何故か不機嫌そうに歪んだ。
数メートルも離れていない距離で幾つもの視線が絡み合う。
無様な私の向こうには大きな瞳が愛らしい、小柄な女性が私を心配そうに見ていた。
ギュッと唇を噛み締めて急いで立ち上がる。
泣かない。
絶対にここでは泣かない。
震える手足を必死で動かす。
ぶつかった男性に丁重に詫びて。
千歳さんから逃げるように走った。
「穂花っ!」
千歳さんの大きな声が私を追いかけてくる。
呼ばないで……!
振り返ることなく私は人混みに走り去った。
会社に入る一歩手前で。
震える冷たい手で髪を撫で付ける。
スーツの乱れを確認し、深呼吸をひとつ、した。
溢れ落ちそうな涙を瞬きでしっかりと押し止めて。
エントランスに足を踏み入れた。
「こんばんは」
顔見知りの警備員さんに声をかける。
退社時間が過ぎているので受付に人はいない。
少しホッとしながらも、作った笑顔を張り付けてエレベーターホールに向かう。
そのままの表情でエレベーターに乗り込み、秘書課に向かう。
残業中の美冬さんに、公恵叔母さんと松永室長は離席していると聞いた。
「穂花ちゃん?
どうしたの?
顔が真っ青よ」
美冬さんが心配してくれる。
「とにかく詳しいことは後で聞くから、今日はもう帰りなさい。
社長と松永室長には、私から伝えるから」
私は美冬さんの言葉に甘えて、そのまま退社した。
キョトンとする女性の隣りで千歳さんが私を見ていた。
懐かしくて愛おしい漆黒の瞳。
その瞳が心配そうに、何故か不機嫌そうに歪んだ。
数メートルも離れていない距離で幾つもの視線が絡み合う。
無様な私の向こうには大きな瞳が愛らしい、小柄な女性が私を心配そうに見ていた。
ギュッと唇を噛み締めて急いで立ち上がる。
泣かない。
絶対にここでは泣かない。
震える手足を必死で動かす。
ぶつかった男性に丁重に詫びて。
千歳さんから逃げるように走った。
「穂花っ!」
千歳さんの大きな声が私を追いかけてくる。
呼ばないで……!
振り返ることなく私は人混みに走り去った。
会社に入る一歩手前で。
震える冷たい手で髪を撫で付ける。
スーツの乱れを確認し、深呼吸をひとつ、した。
溢れ落ちそうな涙を瞬きでしっかりと押し止めて。
エントランスに足を踏み入れた。
「こんばんは」
顔見知りの警備員さんに声をかける。
退社時間が過ぎているので受付に人はいない。
少しホッとしながらも、作った笑顔を張り付けてエレベーターホールに向かう。
そのままの表情でエレベーターに乗り込み、秘書課に向かう。
残業中の美冬さんに、公恵叔母さんと松永室長は離席していると聞いた。
「穂花ちゃん?
どうしたの?
顔が真っ青よ」
美冬さんが心配してくれる。
「とにかく詳しいことは後で聞くから、今日はもう帰りなさい。
社長と松永室長には、私から伝えるから」
私は美冬さんの言葉に甘えて、そのまま退社した。