リボンと王子様
顔からザッと血の気がひく。

近くにあった鞄をひっつかんで、部屋を飛び出した。


今は彼からの最後通牒を冷静に受け取れない。


エレベーターを使うのが恐くて階段を駆け降りてロビーに向かった。

周囲を窺いながら夜の街に飛び出した。

足がもつれる。

雨上がりの湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。

雲の切れ間から明るい三日月が顔を出す。

ぼんやりと雲が途切れていく。


水溜りに足が取られることも気にせず、駅に向かって全力で走った。

タイミングよく来た電車に飛び乗って。

ホッと胸を撫で下ろした。


車内はラッシュの時間が過ぎたせいか人影はまばらだった。

空いている席にヨロヨロと腰をおろした。

皺になっていたスカートの裾を引っ張る。


車窓の外に広がる暗闇。

仄かに光るネオン。


その色が千歳さんの瞳を思い出させて、涙がひとつ、零れた。

窓に映る私の顔は酷いものだった。



このまま引きこもってしまいたい。

そんなことを考えながら実家に向かった。

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