リボンと王子様
二人がけテーブルに思わず身を乗り出す私に。

美冬さんは落ち着いた表情で話した。


「根拠はないけど。
普通、自分が別れたい、離れたいって思っている女性をそんなに必死に探す?
無事がわかればいいだけなら、めぼしい場所を何軒か当たって、連絡してもらえばいいだけじゃない?
相手が自分を避けてくれたら、それこそ立派に自然消滅できるし、万々歳でしょ」

「……そんな」

「穂花ちゃん、響さんの合鍵、まだ持ってるんでしょ?
返してくれとも言われてなくて。
響さんも穂花ちゃんの合鍵を返してこない。

響さんって響株式会社の御曹司でしょ?
責任も立場もそれなりにある。

いくら今は他社に勤めているっていっても、軽々しく合鍵なんか渡す?
それってよっぽどの覚悟じゃないの?
嫌いになって別れるなら合鍵、即刻返却してもらうわよ、私だったら。
ついでに鍵も変えるわね、悪用されたら嫌だもの」

「……でも」

「本当の気持ちは本人にしかわからないけど、二人とも誤解が拗れてしまっているだけな気がするのよ。
真向かいに住んでいるんでしょ?
私だったら引っ越すわよ、別れた後もそんな近い距離にいたくないもの。
そんな中途半端な状態で、新しい彼氏や彼女とか考えられないと思うけど?」


淡々と話す美冬さんの言葉が胸に優しく沁みた。

パンでボソボソだった口の中がスッキリして、食欲が出てきた。


「そっか……そうですよね。
私、いっぱいいっぱいで……」

「そうね。
……真っ直ぐなところは穂花ちゃんの長所だって思っている。
その真っ直ぐな気持ちで好きになった人をもっと信じて、玉砕覚悟でも正直な気持ちでもう一度ぶつかってみたら?」


素っ気ないようで何よりも優しい先輩の言葉に素直に頷いて。

少し元気がでた私は玉子サンドイッチをおかわりした。




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