リボンと王子様
「……あれ?」



赤信号で車が止まった時。

瑞希くんが私の髪を見て首を傾げた。



「穂花、髪に白いリボン結んでなかったのか?」


ドキンッ。


心臓が跳び跳ねた。

鋭い指摘に顔が一瞬強張る。



「母さんが以前からやたらと、イニシャルを刺繍したリボンの話をしていたんだ。
仕事上でも使えないか、って考えているみたいでさ。
その刺繍入りのリボンを穂花の髪に結ぶんだって何度も聞かされていたから」

「あ、うん……結んでもらったんだけど……何処かで落としちゃったみたい……で。
さっき走ったからかな……せっかくプレゼントしてもらったのにごめんなさい……叔母さんにも謝らなくちゃ……」



脳裏に咄嗟にリボンを結んだ彼の姿が浮かぶ。

彼の骨ばった手。

細くて長い、指。

澄んだ夜色の瞳に、凄まじく綺麗な顔立ち。

耳朶を震わせる低い声。

触れた唇の熱。



先刻の出来事を。

正直に話しても良かった筈なのに、何故か話すことを躊躇う私がいた。

普段の私ならきっと話していた筈なのに。

そんな私の様子を、何か言いたげにじっと見つめて。

瑞希くんはフイと視線を逸らした。



「いや、穂花が気にすることないよ。
仕方がないことだし。
母さんには俺から話しておくから」

「……でも、私からも謝るよ」

「……せっかく綺麗なんだから、そんな悲しそうな顔をするなよ」


フワリと優しく、眼鏡の奥の瞳を細めて、瑞希くんはいつものように微笑んだ。
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