リボンと王子様
そんなわけで。

公恵叔母さんの個人秘書のような立場だった私は。

いきなり社長秘書になってしまい、その責任の重さにおののいた。



この大事な時期を乗り切れるほどの力は、今の自分にはないとわかっているため、辞退も考え、申し出た。

とはいえ、社会人なのだ。

努力もせず、甘えてばかりはいられない。

何より社員皆が一丸となり、頑張っていた時期でもあった。



私はその日から必死に勉強し、松永室長を始め、たくさんの先輩方に指導していただいた。

この二年間は毎日がめまぐるしく必死だった。


少しでも公恵叔母さんの力になりたかった。

今でも秘書としてはまだまだ未熟な私だけれど。

秘書課の先輩方はとても優しくて親切で。

有り難いことに、一番年下の私を可愛がってくれている。



私の四歳年上の都築美冬さんは私の指導係を担ってくれている。

ショートカットに少し垂れ目がちな瞳が印象的な可愛らしい顔立ちの美冬さんは厳しくも優しい先輩だ。

ハキハキした話し方なのでキツい印象を持たれがちなのだが、実はとても温かい人だ。

仕事を冷静かつ的確にこなす美冬さんは私の憧れだ。


「葛城さん」


お茶を出して、社長室を辞した私が秘書課に戻るとすぐに松永室長に呼ばれた。


「はい」


返事をして松永室長のデスクに向かう。


「先程の話ですが、響株式会社社長夫人がいらっしゃるそうですから、失礼のないように」

銀縁眼鏡の奥の瞳を細めて、松永室長は言った。



松永室長は常に冷静沈着。

どんな事態にも的確な判断を下す。

そんな松永室長に叔父様も叔母さんも全幅の信頼を寄せている。

寸分の隙もなくスーツを着こなし、まだ三十代前半だということが信じられないくらいの威厳がある。

彼の前に行くと自然に背筋が伸びる。
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