リボンと王子様
「えっ……響株式会社ですか?」



思わず大きな声が出た。

響株式会社はわかりやすく言えば我社のライバル会社だ。

化粧品製造、販売をしている、いわゆる同業他社になる。

商品はとても魅力的でその国内販売シェアは我社と均衡している。



私の声に松永室長が少し眉をひそめた。


「……くれぐれも先方の前でそのような声は出さないように」

「は、い。
も、申し訳ありませんっ。
あの、私で務まりますでしょうか……」



何か急な話でもあるのだろうか。

最近の社長のスケジュールには響株式会社関連の名前はなかった筈なのに。

何か見落としていたのだろうか。

頭の中でああでもないこうでもない、と思案している私のことがわかっていたのか、松永室長が苦笑しながら言った。


「葛城さんか考えているようなことは何もないですよ。
社長も仰っているように、お食事です。
いらっしゃるのは社長夫人のみですよ」

「……そう、なんですか」


松永さんの言葉を聞いて少し肩の力が抜ける。



何をかくそう、公恵叔母さんと響株式会社の社長夫人は高校時代からの親友なのだ。

「社長もあまり堅苦しい場にしたくないようだから、あまり緊張せずに行ってきなさい。
……あくまでもプライベートなことだと仰っていたから。
帰りは直帰で構いませんよ」


大体の内容を知っているのだろう。

松永室長は困惑した表情を浮かべる。

とはいえ、それを軽々しく口にする松永室長ではない。

「……はい」

短く返事をして。

残っている仕事を片付けるために自席に戻った。
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