リボンと王子様
女将さんがスッと障子をひくと、既に到着していた響社長夫人が嬉しそうに微笑んだ。


「お待たせしてしまって申し訳ありません」


公恵叔母さんが入口近くに腰をおろし挨拶をしようとすると、すぐに響社長夫人が立ち上がった。

「あらあら、そんな堅い挨拶、やめてちょうだい。
私も先程来たばかりよ」



「それでは、お料理の準備をしてまいりますので、どうぞおくつろぎ下さいね」

女将さんが退出すると、場が打ち解けたものに変わった。


秘書としての立場で挨拶しないでよ、と公恵叔母さんに車内で釘を刺されていた私が、ご挨拶をしようと口を開きかけた時。


「まぁまぁっ!
あなたが穂花さん?」

「は、はいっ……」

「すっかり大人の女性になられて!
公恵さんからお話を伺ってはいたけれど、ずっと会いたかったのよ……本当に懐かしい!」


目を細めて、ギュッと私の手を握って微笑んでくださる響社長夫人。

ショートカットの黒髪に年齢を感じさせない綺麗な肌。

若々しく、それでいて嫌味ではなく丁寧に施されたメイク。

白い手は、乾燥してガサガサの私の手より断然綺麗だ。


「穂花ちゃんは小さかったから覚えていないかもしれないわね。
有子さんと穂花ちゃんは随分前にお会いしたことがあるのよ」


呆然としている私に、公恵叔母さんが助け船を出してくれた。


「そう。
今から……十数年前かしら?
穂花さんはまだランドセルを背負っていたわ。
それはもう可愛らしくて!
すっかり綺麗な女性になっていて見違えちゃったわ」



< 39 / 248 >

この作品をシェア

pagetop