リボンと王子様
『うわーん、痛いよぅ』

『穂花、どうした？！
転んだのか？』

『……だから走っちゃダメって言ったのに。
ほら、穂花立てる？』



言いながら、差し出されたのは優しい手だった。

泣きながらブンブン首を振る幼い私の前に。



『おんぶしてあげるよ、おいで』



片膝をついて背中に乗せてくれた男の子。

パパとも瑞希くんとも違う温かな背中。



真っ白な制服のシャツが汚れることも厭わずに私をおぶってくれた……『お兄ちゃん』だった。

愚図る私に、大丈夫だよと何度も言ってくれた。



あのお兄ちゃんが千歳くん、だったのか……。

ひとつ思い出すと、今まで忘れていたことが不思議なくらいに色々なことを思い出した。



樹くんを瑞希くんに託して、私を公恵叔母さんの元に運んでくれた千歳くん。

手当てを終えるまで、泣きじゃくる私の手を握っていてくれた。

その温もりが優しくて、とても安心して。



泣き止んだ幼い私を見て微笑んでくれた……あの男の子が千歳くん？

ただ、彼の顔立ちは薄衣が頭の中にかかったかのように朧気でボンヤリしている。

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