リボンと王子様
「思い出した？」

公恵叔母さんの声にハッと我に返る。

すっかり幼い記憶に意識を向けてしまっていた。



「あ、はい……朧気なんですけど……おんぶをしてもらって……」

「そうそう、そんなこともあったわね！
千歳ったら蘭よりも穂花ちゃんが可愛くて仕方なかったみたいでね」

クスクス笑う響社長夫人。

「……あの時はありがとうございました……」

何だか恥ずかしくなって頭を下げる私。



「まあ、そんなに気を遣わないで。
随分昔の話だし、そんなつもりで話したわけじゃないのよ」

「いえ、でも響様」

「嫌だわ、私も公恵さんのように呼んでちょうだい。
あの頃は有子おばさまって呼んでくれていたのよ？」

「……いえ、でも」





……十数年経ってそれはハードルが高すぎる。

しかも我社とライバル関係にある会社の社長夫人だ。

引き下がりそうにない響社長夫人の様子を感じ取ったのか、公恵叔母さんが苦笑して言った。




「いいじゃない？
公式な場ならともかく。
今はプライベートだし、有子さんもそれを望んでいるのだから、ね？」

「は、はい……では有子おばさま……」

図々しすぎないかとヒヤヒヤしながら呼ぶと。

嬉しい、と有子おばさまが破顔した。

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