リボンと王子様
「……ラッキー?」


私は掠れた声で必死に問い返す。



「嫌なこと続きで散々だった今日の終わりに、君に出会えた」


真摯な声が耳に響く。

妖艶な光を宿した夜色の瞳に射ぬかれて。

頬が再びカアアッと赤く染まる。

心臓の音がうるさい。

彼に聞こえてしまいそうだ。



彼は何処かのパーティーに参加していたような装いをしている。

まるで王子様のよう。

火照る頬が恥ずかしくて俯くと。

顎に長い指がかかって、クイッと上を向かされた。

男性にそんな風に触れられたことがない私は戸惑いを隠せない。



少し細めた双眸が容赦なく私を見下ろす。

夜色の瞳に私が映りこむ。

彼の長い綺麗な指に、力はこもっていない。

けれど。

ゾクゾクするほど色気のある瞳に魅入られて、動けない。



「……引き込まれそうだな」



小さく呟く低い声が身体にジワリと響く。

軽く伏せられた瞳。

男性にしては長すぎる睫毛が頬に小さな影を落とす。

急速に近付いた彼の吐息が私の頬をくすぐる。



初対面の男性と近すぎる距離にいるのに、不思議と嫌悪感は感じなかった。

感じるのは壊れそうな自分の鼓動。

震えそうになる足。

思わず後退る私の腰をすかさず彼が捕まえる。

両腕に閉じ込められた私を見つめる漆黒の瞳は、慈しむように優しい。



引き込まれるのは私のほう。




予感がする。



これから起こる出来事をずっと忘れられなくなると。


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